NEXTWEEKEND村上萌の #かぞくごと Vol.1

13 MAR 2018

vol.1
「ピクニックしよっか」
文・村上 萌

私が8歳の頃、地元のジャズバーのマスターだった父は、急に海外に会社を作ると言って渡航しました。
「失敗したらラーメン屋さんの屋台でもやろうね」と言って笑顔で見送る母に、今だったら「ラーメン屋さんだって大変だよ」と声をかけてあげたいのですが、当時の私はそういうものなのだと思って隣で手をつないで手を振ることしかできませんでした。
今となっては、あれから20年以上海外で会社を続けて、日本と行ったり来たりしながら家族を支えてきてくれた父には感謝の気持ちでいっぱいですが、ジェットコースターのような家計の状況に母は常に不安だったろうな、と思います。

そんな状況だったからか、母はどんな環境でも楽しむ工夫が上手でした。
定期的にあるキャンドルナイトという夜ご飯の日は誕生日ケーキのような雰囲気で、私も弟も大好きだったのですが、後で聞くと料理の品数が少ない日に、せめて楽しくなるようにキャンドルをつけていたそうです(暗くてよく見えないという利点もありました)。
怖い話が忘れられずに、1人で眠れない冬には「怖いことが全部忘れられるクリーム」をサンタさんに頼んで届けてくれました。
小さなカプセルに入ったラメ入りのクリームを塗ると、なんだかやたらと手がすべすべになったので、中身がなんだったのかは大人になって想像できましたが、とにかく目の前のものを組み合わせて生活を楽しむ達人だったのだと思います。

そんな母が口にするキーワードで1番好きだったのは、「ピクニックしよっか」でした。
お天気が良い週末、花が咲いた日、美味しい紅茶をもらった日、たいした理由や材料がなくても、いつもと同じものをわざわざ箱に詰めて、ポットに移して、外に持って行って食べる、というのはどうしようもなく心が躍る提案でした。
今でもギンガムチェックのものを見ると嬉しくなったり、水筒が好きなのは、パブロフの犬のように、あの時の条件反射なのかもしれません。

そして私が母になり、今娘に対して思うことは、特別な経験を沢山させてあげようということよりも、毎日をどうやったら楽しく過ごせるかという小さな工夫をいっぱい教えてあげたいということです。
私の座右の銘(?)は「せっかくなら」なのですが、同じことをやるにしてもこの一言を加えるだけで「じゃあ外に出かけてみようか」「ミントを添えてみようか」「あの子も誘ってみようか」と沢山の提案が溢れ出てきます。
ピクニックはきっと、その代表的存在。やらなくてもいいけど、やるとぐっと毎日が楽しくなる魔法の時間です。
今度の週末は「せっかくなら、ピクニックしよっか」から始めてみてはいかがでしょう。